深野貴彦先生 鵺


シテ「悲しきかなや身ハ籠鳥。心を知れば盲亀の浮木。たゞ闇中に埋木乃。さらば埋れも果てずして。亡心何に殘るらん

シテ「浮き沈む。涙の波乃うつほ舟
地「こがれて堪へぬ。いにしへを
シテ「忍び。果つべき。隙ぞなき
深野貴彦師「鵺」前シテ1


深野貴彦師「鵺」前シテ2
ワキ「不思議やな夜も更方の浦波に。幽かに浮かみ寄る物を。見れば聞きしに變らずして。舟の形ハありながら。たゞ埋木の如くなるに。乗る人影もさだかならず。あら不思議の者やな


深野貴彦師「鵺」前シテ3 地「さても近衛の院乃御在位の時。仁平の頃ほひ。主上夜な夜な御惱あり

シテ「有験の高僧貴僧に仰せて。大法を修せられけれども。そのしるし更になかりけり

地「御惱は丑の刻ばかりにてありけるが。東三條の森乃方より。黒雲一むら立ち来つて。御殿の上に蔽へば必ず怯え給ひけり


地「さる程に案の如く。黒雲一むら立ち来り。御殿の上に蔽ひたり。ョ政きつと見上ぐれば。雲中に。怪しき者の姿あり 深野貴彦師「鵺」前シテ4



深野貴彦師「鵺」前シテ5

シテ「矢取つて打ち番ひ
地「南無。八幡大菩薩と。心中に祈念して。よつ引きひやうと放つ矢に。手應へしてはたと當る。得たりや。おうと矢叫して。落つる所を猪の早太つゝと寄りて續けさまに。九刀ぞ刺いたりける。

深野貴彦師「鵺」前シテ6
地「さて火を灯しよく見れば。頭ハ猿尾ハ蛇。足手ハ虎の如くにて。鳴く聲鵺に似たりけり。恐ろしなんども疎かなる形なりけり




深野貴彦師「鵺」後シテ1 ワキ「不思議やな目前に来る者を見れば。面ハ猿足手ハ虎。聞きしに變らぬ變化の姿。あら恐ろしの有様やな


地「即ち御惱頻りにて。玉體を惱まして。怯え魂消らせ給ふ事も我が為す業よと怒をなしゝに。思ひも寄らざりしョ政が。矢先に當れば變身失せて。落々磊々と。地に倒れて。 深野貴彦師「鵺」後シテ2


シテ「ほとゝぎす。名をも雲居に。揚ぐるかなと。仰せられければ

地「ョ政。右の膝をついて。左の袖を廣げ月を少し目にかけて。弓張月の。いるにまかせてと。仕り御劔を賜はり。御前を。罷り歸れば。ョ政ハ名を揚げて。
深野貴彦師「鵺」後シテ3


深野貴彦師「鵺」後シテ4 地「我ハ。名を流すうつほ舟に。押し入れられて。淀川の。淀みつ流れつ行く末の。鵜殿も同じ蘆の屋の。浦曲乃浮洲に流れ留つて。朽ちながらうつほ舟の。月日も見えず。冥きより冥き道にぞ入りにける。遥かに照らせ。山の端乃遥かに照らせ。山の端乃月と共に。海月も入りにけり海月と共に入りにけり


平成15年 8月31日(日) 観世青年研究能  於 京都観世会館
 能楽「鵺」
  
シテ:舟人/鵺の霊 深野貴彦
  
ワキ:旅の僧 小林努
  
アイ:芦屋の里人 山口耕道
  
 森田光廣 小鼓 林光寿 大鼓 谷口有辞 太鼓 前川光範
  
後見 深野新次郎 浦田保親
  
地謡 浦田保浩 越賀隆之 吉波壽晃 浦部幸裕
      吉田篤史 上野嘉宏 林宗一郎 青木智彦