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弁慶「いかにこの家の内に静の渡り候か。君よりの勅使に武蔵が参じて候 静「武蔵殿とはあら思ひ寄らずや。何の為の御使いにて候ぞ |
弁慶「いやいやこれは苦しからぬ。旅の船路の門出の和歌。ただ一さしと勧むれば 静「そのとき静は立ち上がり。時の調子を取りあへず。渡口の郵船は。風静まって出づ 地謡「波頭の謫所は。日晴れて見ゆ 弁慶「これに烏帽子の候。召され候へ 静「立ち舞ふべくもあらぬ身の 地謡「袖うち振るも。恥かしや |
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地謡「かく尊詠の偽りなくは。やがて御代に出船の。舟子ども。はや纜をとくとくと。はや纜をとくとくと。勧め申せば判官も。旅の宿りを出で給へば 静「静ハ泣く泣く 地謡「烏帽子直垂脱ぎ捨てゝ。涙に咽ぶ御別れ。見る目も哀れなりけり見る目も哀れなりけり |
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知盛「知盛が沈みしその有様に 地謡「また義經をも海に沈めんと。夕波に浮かめる長刀取り直し。巴波乃紋邉を拂ひ。潮を蹴立て悪風を吹きかけ。眼も眩み。心も乱れて。前後を忘ずるばかりなり |
義經「その時義經少しも騒がず 地謡「その時義經少しも騒がず。打物抜き持ち現の人に。向ふが如く。言葉を交わし。戦ひ給へば。弁慶押し隔て打物業にて叶ふまじと。數珠さらさらと押し揉んで。 |
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地謡「東方降三世。南方軍茶利夜叉。西方大威徳。北方金剛叉明王。中央大聖。不動明王乃索にかけて。祈り祈られ悪霊次第に遠ざかれば。辨慶舟子に力を合はせ。お船を漕ぎ退け汀に寄すればなほ怨霊は。慕ひ来るを。追っ拂い祈り退けまた引く汐に。ゆられ流れ。また引く汐に。ゆられ流れて。跡白波とぞ。なりにける |
平成14年3月2日(土) 浦田定期能 於 京都観世会館
能楽「船弁慶」
シテ:静/知盛ノ怨霊 深野貴彦
子方:源義経 山崎茉莉子
ワキ:武蔵坊弁慶 清水利宣
ワキツレ:従者 小林努
アイ:船頭 善竹忠重
笛 森田保美 小鼓 伊吹吉博 大鼓 石井保彦 太鼓 井上敬介
後見 浦田保利 深野新次郎
地謡 浦田保親 浅野篤義 越賀隆之 藤井千鶴子
大江信行 松井美樹 田中隆夫 宮本茂樹